2020年8月。一つのニュースが世界を激震させた。
「チャドウィック・ボーズマン、大腸がんにより死去。享年43歳。」
現代の名優の死は業界や映画ファンはもちろん、世間的にも大きな驚きとして報じられていたのを覚えています。
チャドウィック・ボーズマンは、現在も永久欠番となっている42番の背番号を付けた黒人メジャーリーガー”ジャッキー・ロビンソン”を演じた「42 ~世界を変えた男~」での好演が非常に印象的で、「42」は彼のキャリアを大きく上向かせるきっかけの作品でもありました。
名優ハリソン・フォードとの共演でしたが、ハリソン・フォードの存在感に全く負けない演技であり、信念と強い意志を持って逆風吹きすさぶ当時のメジャーリーグに挑戦した黒人青年を見事に演じていたのが記憶に新しいです。
みんな大好きブラックパンサー/ティ・チャラへの抜擢もこれがきっかけ。
MCUのドンであるケヴィン・ファイギも「42」を見て「まさに我々が求めているティ・チャラ像にぴったりだった」と回顧しています。
そして、訪れた突然の死。
本作「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」は、突如現実世界に訪れた”死”を真正面から体当たりで受け止めるような、「悲しみ」を誤魔化したりしない堅実に作られた愛のある続編であり、キャラクター造形が素晴らしい作品でございました。
賛も否もありますが、ネタバレありでレビューいきましょう!!
映画「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」 あらすじ
偉大な王であり、守護者であるティ・チャラを失ったワカンダ王国。悲しみに打ちひしがれる中、謎の海底王国タロカンからの脅威が迫る…。ワカンダと世界を揺るがす危機に、残された者たちはどう立ち向かうのか。そして、新たな希望となるブラックパンサーを受け継ぐ者は誰なのか…。
公式HPより
映画「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」 キャスト・スタッフ
- 監督:ライアン・クーグラー
- レティーシャ・ライト/シュリ
- ダナイ・グリラ/オコエ
- アンジェラ・バセット/ラモンダ ※アカデミー賞助演女優賞ノミネート
- マーティン・フリーマン/エヴェレット・ロス
- テノッチ・ウエルタ・メヒア/ネイモア
- ドミニク・ソーン/リリ・ウィリアムズ(アイアン・ハート)
映画「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」ネタバレあり感想
注意
本レビューはネタバレを含みます。
必ず本編ご鑑賞後にお読みください。
現実で訪れたチャドウィックの死に、スタジオや製作陣は「劇中のティ・チャラも死亡する」という設定を取ります。
監督のライアン・クーグラ―はじめ製作陣はチャドウィックの死を受け、CGで復活させることや違う俳優を代役に立てティ・チャラというキャラクターは存続させるという選択肢は選びませんでした。
”チャドウィックの死から監督業の引退まで考えた”というライアン・クーグラ―のような人からしたら、むしろ先の選択肢は選べなかったのかもしれません。
今まさに死にゆく兄の回復を祈るシュリの声で幕を開けるオープニングには、こちらも冒頭からいきなり感情を揺さぶられます。
本作「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」は一つの作品をかけて丁寧に織りなされた弔いであり、製作陣が涙ながらに決めた別れのケジメなのかもしれません。
こういった決断からも、製作陣のチャドウィック・ボーズマンに対する最大のリスペクトだと感じますし、大きな愛を持って作品に向き合っていると感じました。
本作と向き合うには複雑な感情が織り交ざりますが、少し分解してみましょう。
前作から格段によくなったキャラクター造形
圧倒的主人公/ティ・チャラ失った、劇団「ブラックパンサー」。
続編自体は楽しみでしたし、感情的にもめちゃめちゃ応援していたんですが、正直どうなってしまうのか勝手な不安と心配を抱いていたのも事実。しかし、フタを開けてみればそんなものは余計なお世話でした。
劇中・現実のどちらでも訪れた”死”の喪失感を共有するチームの団結が目に分かる、一流のエンターテイナーの底力を見た気がします。
本作で何が素晴らしいって、一人として魅力的でないキャラクターがいないこと。
続編なので基本的には前作「ブラックパンサー」からのキャラクターがほとんどですが、その作り込み方が素晴らしい。
兄の死からいろんな意味で主人公になったシュリは、間違いなく兄の死を乗り越えられていません。ワカンダでは死者との別れを意味するという、喪服を燃やす儀式だって拒絶してしまうほど。
劇中では海底王国タロカンの王・ネイモアに母まで殺される展開になるわけですが、レティーシャ・ライトは喪失が復讐のエネルギーになってしまううら若き王を見事に演じていました。
そしてレティーシャ・ライト自身も、まさに兄のようにチャドウィックのことを慕っていたそう。
本作のラストシーン、ライアン・クーグラーらしいカットの美しい夕日に照らされながら兄と”別れ”を決意するシュリの涙は、レティーシャ・ライトその人の涙だったのかもしれません。
シュリだけじゃなくオコエやラモンダ、エムバクだって前作よりも格段に魅力的だったし、エムバクに関してはマジでジャイアンを超えるジャイアンで、もはやただの良いヤツでした。(クックルカンッ!)
そして何より、本作で誰よりも輝いていたのは初登場のネイモア。
ドミニク・ソーン演じるリリ・ウィリアムズの作った機械により国の存続が危ぶまれると主張し、本作では対ワカンダの体制を取るヴィランでしたが、正直ワカンダの誰よりも魅力的で輝いていました。
まずめっちゃ強いのが良い。正直彼一人でどうにかなってしまうんじゃないかぐらい強いですし、機転がなかったらシュリが勝てる相手ではありませんでしたよね。戦闘シーンなんかは見ているだけで楽しい。彼が率いるタロカンの部隊もビジュアル的な魅力がピカイチでした。
ちなみにライアン・クーグラー曰く、ハルクやソー並みに強いキャラクターとのこと。
複雑なバックストーリーもありましたが、演じたテノッチ・ウエルタ・メヒア(はじめまして)の好演のおかげで、彼が出ている瞬間はどのシーンも彼に目がいってしまうほど、本作で間違いなくMVPの名キャラクターでした。
チャドウィックの死は悲しいですが、彼の不在を感じさせない見事な名演のアンサンブルや丁寧なキャラ造形には正直驚かされましたし、ある意味前作にはなかった大きな魅力だったのではないでしょうか。
奥歯に詰まるストーリー
いろんな背景からも手放しに絶賛したいんですが、意外にそうでもなかったのが正直なところ…。
どうしてもストーリ―展開、脚本に疑問を持ってしまいました。というより、シュリに与えられたストーリーがどうしても好きにはなれませんでした。
兄の喪失から立ち直れず、母まで失い復讐者としてタロカンを襲撃する。
なんとなく分かるんですが、それを”ブラックパンサー”として実行してしまうことにいちファンとしてはどうしても飲み込めないものがありました。というか、ティ・チャラはそれを望んでるのか?って思ってしまったんですよね。
そもそも2代目ブラックパンサーを襲名する流れにも、”うまいことハーブの調合が成功してパワーを手に入れただけ”的な空気がしますし、そのままvs.タロカンに向かいながら叫ぶ「ワカンダ・フォーエバー!!」には正直冷めてしまいました。
僕がブラックパンサー像をちゃんと理解できていないだけかもしれませんが、人格者ティ・チャラが圧倒的な国王であっただけに、どうしてもシュリが叫ぶ「ワカンダ・フォーエバー」には復讐に取りつかれたままの人間がその手段としてブラックパンサーとなるようにしか見えませんでしたし、タロカンも背に腹は代えられない事情があるだけに”侵略者”のようにも見えてしまいました。お前もうその服脱げよと。
「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」公開時にティ・チャラの掛け声に、思わず胸の前で腕をクロスして反応してしまった身としては、かなり残念なポイントです。
先に述べたように、ネイモアのキャラクターがかなり良くて用意されたストーリーも丁寧であっただけに、どうしてもブラックパンサーが悪者に見えてしまったし、最後降伏させて和解ムードで戻ってくる感じもわかりますが、”いやキレイに仲直りしてる感あるけどお互い何人の戦士犠牲にしてんだ!?”と突っ込みたくもなります。まあこの手の映画はそういうもんなんでしょうが…。
とまあそんな不満も僕の中でのティ・チャラ/ブラックパンサーがあまりにも高潔だったせいなんですけどね。こじれています。
個人的にはもう少し納得感のあるストーリーが用意されてほしかったというのが正直なところでした。
まとめ
感想としては賛否分かれておりますが、なんだかんだ良い映画だと感じました。
シュリがいよいよ決心し喪服を燃やすシーンも、やや湿っぽい感じはしますが、ティ・チャラ/チャドウィック・ボーズマンとの別れを丁寧に描いていたと思います。
この辺は好みが出るところとは思いますが、クーグラーはじめ関わるキャスト・スタッフの想いがわかるだけに、胸が熱くなります。
MCUとしてもネイモアという新たな財産を得た大事な一本。
ただ、映画としてのネイモアの権利はユニバーサルが保持してるということで、単体の映画は今のところ作れない模様。
とりあえずのところはこうしてサブキャラクターとして出てくるので耐えるしかないですね…。
シュリのブラックパンサーも、今後どんなドラマが待っているのか楽しみです。
今後もMCUは目が離せません。
次はアントマン!楽しみに待ちましょう。
以上!!
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