映画「空白」ネタバレなし感想・解説 壮絶な物語に震えろ。

映画感想
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基本的に僕は洋画ばかり観ているので、邦画を観始めたのはほんとつい最近の話。初めて映画館で観た邦画は2018年公開の「カメラを止めるな!」でした。(今思えばめちゃくちゃ良いデビュー)

というのも邦画に対しては割とアレルギーというか食わず嫌いがあって、「邦画=つまらない」なんて安易な説を自分に言い聞かせながらすくすくと育ってしまいました。

まあただそれも良くないよねということで「カメラを止めるな!」だとか是枝監督の「万引き家族」(大好き)を皮切りに邦画の良さに段々と気づき、今ではすっかり普通に観るようになってきたという次第です。

邦画にも慣れだしたころ、少ない邦画歴ですがダントツでブッ刺さった一本こそ、「空白」。

監督は「ヒメアノ~ル」「愛しのアイリーン」を手掛けた𠮷田恵輔監督。

正直観るのに気力と体力のいる作品ですが、重厚でリアルで生々しい物語にガッツリ心掴まれました。

映画「空白」あらすじ

ある日突然、まだ中学生の少女が死んでしまった。スーパーで万引きしようとしたところを店長に見つかり、追いかけられた末に車に轢かれたというのだ。娘のことなど無関心だった少女の父親は、せめて彼女の無実を証明しようと、店長を激しく追及するうちに、その姿も言動も恐るべきモンスターと化し、関係する人々全員を追い詰めていく。

公式HPより

映画「空白」キャスト・スタッフ

  • 監督:𠮷田恵輔
  • 松坂桃李(青柳直人)
  • 古田新太(添田充)
  • 伊東蒼(花音)
  • 田畑智子(松本翔子)
  • 寺島しのぶ(草加部麻子)
  • 片岡礼子(中山緑)

映画「空白」ネタバレなし感想

スーパーで万引きを疑われた少女が逃げ出し、店長に追われる道中で車に轢かれて死んでしまう…

痛ましく生々しい、近頃のグロテスクな映画よりもよっぽど血の気が引くオープニングで幕を開け、少女を演じた伊東蒼ちゃんが無残にも轢かれてしまったその直後に現れるタイトルコール。

空白

この映画全体を暗示するかのような、居心地の悪すぎるオープニングには、開始早々からただものではない何かを感じます。

あらすじとオープニングだけでこの映画が気楽に観れる映画ではないことは確かですが、

残念ながらこの物語は、完全なフィクションではありません。

実際に起きた事件

この映画は、実際に川崎市の書店で発生した万引き事件からインスパイアされています。

この事件は書店で万引きを働いた少年が逃げ出し、その道中で遮断機が下りた踏切に立ち入り電車に轢かれ死亡してしまったもの。

しかし、一人の少年が万引きの果てに死亡してしまった事件がこれだけで終わるわけもなく、万引きされた書店は近隣住民を中心に一部の人間から大変な非難を浴びることになります。

執拗に書店へ電話をかけ店側を問い詰める者、実際に書店まで来て「人殺し」と主張する者、テレビ取材に対し「店側に配慮が足りなかった」と好き勝手言う者。

挙句の果てに「子供相手の商売なんだから万引きなんてよくある話でしょ」とトンデモ理論を繰り出す人間が出る始末。

これだけの非難を浴びた書店は限界に達し、最終的には閉店へと追い込まれてしまいました

誰の立場に立っても”地獄”

この映画は松坂桃李演じるスーパーの店長・青柳と古田新太演じる死亡してしまった少女の父親・添田の二人を中心に物語が進んでいきますが、それだけでなく多くの人を絡めた群像劇としての側面があるのが本作のうまいところ。非常に濃密な人間ドラマに仕上がっています。

青柳が務めるスーパーアオヤギのパートスタッフ、添田の元妻、花音の中学校の先生、さらには轢いてしまった運転手…など結構いろんな人の事件後の様子が生々しく描かれます。

そしてどの立場に立っても、誰の気持ちになっても辛い。誰かが憎い。

そんなある意味”地獄”のような映画体験が味わえるのも本作の魅力であり大きな見どころの一つです。

人ひとり、ましてや未来ある少女が死んでしまったのだからそれも当たり前かもしれませんが、叶うならば自分の身の回りで起きてほしくない壮絶な人間模様です。

このハードで重厚な人間ドラマの説得力と物語のクオリティを飛躍させた要因こそ、𠮷田監督や演じたキャスト陣の素晴らしい実力・手腕なのではないでしょうか。

𠮷田監督は抜群のコメディセンスがありながら、繊細でリアルな人間ドラマを描かせたら右に出るものがいない監督です。𠮷田監督でなければ、本作を描くにはキャパシティ不足で中途半端な映画になっていたことでしょう。

俳優陣の演技も見事。松坂桃李は追い込まれた店長として、指でつついたら破裂してしまうような不安定さと人を頼れない不器用な責任感を最大限に演じていました。対する古田新太の怪演も言わずもがな。シンプルに実生活でいたらあんまり関わりたくない、牙がむき出しのオッサンがうますぎます。

抜群の魅力を持ったキャストと監督の掛け算がガッチリはまったおかげで、この映画がただものでない大きな魅力を放つ作品へと昇華しているように感じました。

監督が描きたかったこと。

とにかくずっしりとした本作ですが、𠮷田監督は個人的体験から「大切な人を失った人はどう折り合いをつけていくのか」という疑問を起点とし本作の製作を始めたそう。本作ではまさにテーマがそのまま、リアルで泥臭く描かれます。

深い喪失から始まり、それがまた別の喪失を生む。何かを失った後、本作の登場人物たちはその”空白”をどう埋めていくのか。そもそもその”空白”は埋められるのか。

終盤で青柳と添田に与えられた”ほんの少しの救い”こそ、人生を支えるようなささやかだけど不可欠な要素であり、監督が示したかった一つの答えなのではないでしょうか。

一口には語れない深いテーマと、目を背けてはいけないような真理が隠れている緻密な脚本には頭が上がりません。

観終わった後には、ボーっと噛みしめながら考えてしまう不思議な一本です。

まとめ

劇場で本作を観た時は圧倒され、その年のベスト映画になることを確信するほどでした。(実際に2021年個人的映画ランキングNO.1)

それぐらい深く大きい”何か”が詰まった映画だし、それをじっくり自分の中で考えるのが心地のいい映画体験でもあります。

気力と体力のいる映画ではありますが、作品の質は保証します。とにかく見ごたえがすごい。

胸糞悪い部分はあるし、振り上げた拳を下ろすべき先がわからない映画ですが、長い人生の中で定期的に見返したい大切な一本となりました。

観る前にはグッと腰を入れときましょう。

以上!!

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