監督のジョーダン・ピールは本業はコメディアンでありながら、初監督を務めた「ゲット・アウト」で映画人としての才能を堂々と世に示し、そのエンタメ性とメッセージ性の絶妙なバランスが世界的に評価された、ハリウッドで今一番脂の乗った監督の一人。
「ゲット・アウト」に続いた「Us/アス」でも、内包するメッセージ性の強さは公開を皮切りに世界中で話題となったのも記憶に新しいです。
本作「NOPE/ノープ」では、黒人兄妹が経営する牧場の上空に突如として現れた飛翔体(UFO?)を描くという、これまたSFチックに振り切ってきたご様子。
そんな「NOPE/ノープ」は、より肩の力を抜いて楽しめるエンタメ性マシマシの安定した一本でございました!!
それでは、ネタバレありでレビュー・考察していきましょう!!!
映画「NOPE/ノープ」あらすじ
舞台は南カリフォルニア、ロサンゼルス近郊にある牧場。亡き父から、この牧場を受け継いだOJは、半年前の父の事故死をいまだに信じられずにいた。形式上は、飛行機の部品の落下による衝突死とされている。しかし、そんな“最悪の奇跡”が起こり得るのだろうか? 何より、OJはこの事故の際に一瞬目にした飛行物体を忘れられずにいた。牧場の共同経営者である妹エメラルドはこの飛行物体を撮影して、“バズり動画”を世に放つことを思いつく。やがて起こる怪奇現象の連続。それらは真の“最悪の奇跡”の到来の序章に過ぎなかった……。
公式HPより
映画「NOPE/ノープ」キャスト・スタッフ
- 監督:ジョーダン・ピール
- ダニエル・カルーヤ(OJ)
- キキ・パーマー(エメラルド)
- スティーヴン・ユアン(ジュープ)
- 撮影監督:ホイテ・ヴァン・ホイテマ (!!!!)
映画「NOPE/ノープ」ネタバレあり感想・考察
ネタバレを含みます!
必ず本編ご鑑賞後にお読みください。
ジョーダン・ピールの映画は怖くて不気味な映画でありながら、重厚で無視できないテーマ・メッセージを孕んでいるのが大きな特徴。
「ゲット・アウト」では人種差別問題を白人女性×黒人男性のカップルを中心に添えて描き、黒人コミュニティが無意識的に感じている恐怖をホラー映画として見事に昇華させていたのが印象的です。
次作の「Us/アス」ではファンタジックな様相が強まり、自分たちと瓜二つの人々が襲いに来る恐怖を描きながら、その裏では貧困とそれによっておこる惨劇を映画全体で描いていました。
「Us/アス」はそのメッセージ性の強さ・露骨さから意外と苦手な人も多いそう。僕は結構好きなんですけどね。
そして本作「NOPE/ノープ」でしたが、ジョーダン・ピールのお家芸ともいえる社会へ訴えかけるメッセージ性の部分はどちらかと言うと薄味になり、よりエンタメ性が高まったSFホラーな仕上がりであると感じました。
「vs未確認物体」のシンプルな面白さ
本作のメインともいえる謎の超巨大物体との対峙やその究明シーンは思っていたより王道のSF感がありましたし、主人公たちの動機も明解。本作を観て多くの人が”ジョーダン・ピールっぽくなさ”を感じたのではないでしょうか。
いい意味なのか悪い意味なのかは受け取り手次第なのですが、僕自身は結構楽しみながら映画を観ることが出来ました。
徐々に明らかになっていく未確認物体の全容はハラハラするものがありましたし、映画中盤で訪れる観客総吸い込まれシークエンスなんかは非常に映画的で引き込まれて、ヤバイやつに襲われる怖さがビンビンに感じられる印象的なハイライトです。
終盤のOJ達が巨大物体に立ち向かう流れなんかは、ビッグバジェットのヒーロー映画を観るような”ゾクゾクさ”がありましたよね。頭使って戦術で勝ちにいこうとするあたりも少年心をくすぐられます。
真面目で重厚な社会へ訴えかけたいメッセージも良いんですが、そこを抜きにしてもエンタメ作品として十二分に楽しい映画であったのが本作「NOPE/ノープ」で驚いた点であり、いい意味で期待を裏切られた側面でした。
でも、なんかあるんでしょ??ピール先生。
「普通にエンタメ作としてオモロイやん」と思いながら観ていましたが、監督しているのはあのジョーダン・ピール。
普通にSFホラー作って、普通に終わるワケがありません。
ジョーダン・ピールはいったいこの映画で何を描きたかったのか?少し噛み砕いていきましょう。
本作「NOPE/ノープ」は、旧約聖書のとある一節から始まります。
わたしは汚物をあなたの上に投げかけて、あなたを辱めあなたを見世物とする。
ナホム書 第3章 6節
引用されたナホム書とは、残虐で傲慢な権力者が君臨していたアッシリアという帝国とその都市・ニエベが陥落する様子が綴られた書。
つまり「残虐の限りを尽くした帝国が神の力により陥落する様」を描いているわけですね。そして、冒頭の一節はその権力者に対し神が発した言葉。
この一節こそ、本作を読み解く重要なカギとなるのではないでしょうか。
OJの牧場近くで遊園地を営むジュープのエピソードが印象的でしたが、彼は子役時代に出演したシットコムでチンパンジーが暴れ、それによる大きなトラウマを抱えています。
暴れたチンパンジーのゴーディーはまさしくショービズの世界から”見世物”にされた存在。出演者であるジュープは目の前で共演者がチンパンジーにボコボコにされるのを見ながら、ギリギリのところで事なきを得ます。
そんなジュープが大人になり何をしているかというと、突如現れた飛翔体を”見世物”にショービズの世界で金儲けしているわけです。”見世物”による惨事を目の当たりにしながら、今度は自らが”見世物”を行う当事者になってしまっているんですよね。
そんなジュープも観客と共に飛翔体に吸い込まれていくわけですが、その後飛翔体は牧場へ向かい直前に食い散らかした人間達の大量の血をOJ達が住む家へ吐き出します。まさに、冒頭に引用された一節とリンクするように”汚物を投げかけられる”形となったあたりはこの映画の不気味さを倍増させるような、ゾッとするシークエンスでした。
この辺りが本作「NOPE/ノープ」のニクいところでもあり、消費されていくことで発展するエンターテイメント業界への強烈なカウンターであると感じます。
観客に見せて楽しませる”見世物”と、”見てはいけない”物体という対比もなかなか面白いですよね。
聖書との一致からも謎の飛翔体=神と捉えると、”見世物”的エンターテイメントを性懲りもなく続ける傲慢な人間に対する超自然的な罰であり、超自然的な存在からの警鐘とも捉えることが出来るのではないでしょうか。
人間がいかに”見世物”を刹那的に消費しているかは、冒頭エメラルドが紹介する黒人騎手による人類初の映画の説明からも理解できますよね。誰も騎手のことなんて忘れてしまっているわけですから。
ジョーダン・ピールはエンタメ作として楽しめるだけでなくこういった意図を潜ませてるあたり、やはり映画として絶妙な噛み応えのある作品を毎回製作してくれるクリエイターであることを再確認した映画体験となりました。
まとめ
みなさま「NOPE/ノープ」いかがだったでしょうか。
これまでのジョーダン・ピールが好きな層からすると、意外に好き嫌いが分かれる作品でもあるかな?と感じる映画ではありましたが、個人的には全然楽しめたし好きな部類の映画でした。
まあただ意外にツッコミどころというか、都合の良い展開があったのも事実。
アレが生物だと気づくのスムーズすぎない?とか、そんなうまく目合わせなきゃいいルール見つけられるか?とか…
大したことではないんですけどね。
安定感抜群のジョーダン・ピール、次はどんな映画を見せてくれるのかな…。
これからもずっと追いかけていきたいところです。
以上!
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