映画「神は見返りを求める」ネタバレあり感想・考察 観るほど居心地が悪くなる!𠮷田監督の新たな傑作。

映画感想
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個人的に今後の作品が楽しみでたまらない日本人監督は誰かと聞かれたらまず即答で答えるのが、𠮷田恵輔監督その人。2021年は「BLUE/ブルー」と「空白」を公開し、「空白」は数々の賞を受賞した今一番熱い監督の一人。

「空白」はネタバレありレビューも書いてますのでこちらからお願いします!↓

宜しくどうぞ

「空白」の時点でもうだいぶトリコになってたんですが、本作「神は見返りを求める」で一番好きな日本人監督になっちゃいました。すこ。

映画「神は見返りを求める」は観れば観るほど居心地が悪くなるような、人間の多面性を描く𠮷田監督が放つドSな愛の物語

間違いなく、𠮷田監督の新たな傑作の誕生です。

こんな記事を書いといてアレですが、この映画は前情報を出来るだけ少なくしていった方が面白いんじゃないかと思います。予告編も観ずに、そのままの状態で観て𠮷田ワールドを楽しんできてください。

ということで、本記事はネタバレを含みますので、必ず本編ご鑑賞後にお読みください!

映画「神は見返りを求める」あらすじ

主人公・イベント会社に勤める田母神(ムロツヨシ)は、合コンでYouTuber・ゆりちゃん(岸井ゆきの)に出会う。田母神は、再生回数に悩む彼女を不憫に思い、まるで「神」の様に見返りを求めず、ゆりちゃんのYouTubeチャンネルを手伝うようになる。登録者数がなかなか上がらないながらも、前向きに頑張り、お互い良きパートナーになっていく。そんなある日、ゆりちゃんは、田母神の同僚・梅川(若葉竜也)の紹介で、人気YouTuberチョレイ・カビゴン(吉村界人・淡梨)と知り合い、彼らとの“体当たり系”コラボ動画により、突然バズってしまう。イケメンデザイナ一・村上アレン(栁俊太郎)とも知り合い、瞬く間に人気YouTuberの仲間入りをしたゆりちゃん。一方、田母神は一生懸命手伝ってくれるが、動画の作りがダサい。良い人だけど、センスがない…。
恋が始まる予感が一転、物語は“豹変”する――!

映画「神は見返りをもとめる」キャスト・スタッフ

  • 監督:𠮷田恵輔
  • ムロツヨシ:田母神尚樹
  • 岸井ゆきの:川合優里
  • 若葉竜也:梅川葉
  • 栁俊太郎:村上アレン
  • 吉村界人:チョレイ
  • 淡梨:カビゴン

映画「神は見返りを求める」ネタバレあり感想

ネタバレを含みます。

必ず本編ご鑑賞後にお読みください。

個人的に、めちゃくちゃ好きでした。この映画。

好みで言えば「空白」の方が好きでしたが、本作はまた違った魅力と側面があって違う角度でめちゃくちゃ面白いし興味深い。

映画を観る楽しさを思い出させてくれる作品です。

𠮷田監督の作家性

「空白」でもそうでしたが、登場人物を短絡的に描かず簡単には感情移入させてくれないのが𠮷田監督の作家性でありメチャクチャうまいところ。

「この人良い人だなぁ」とか「なんかかわいそうだな…」とか思った次のシーンで、「なんだコイツ!!」と思ってしまうような、海外を含め他のどの映画でも感じたことのない不思議な感覚を覚える映画を毎回世に放っています。

𠮷田監督曰く、「人間の良い面も悪い面も描かないと落ち着かない」そう。

本作も御多分に漏れず。観ていて田母神に同情できるかと思いきや過激な復讐劇にはついていける気がしないし、復讐されるゆりちゃんも可哀想だなぁとか思うけど「いやそもそもお前が蒔いた種!!」みたいな気持ちになるしシンプルに腹立つ。だけど気づいたら、二人とも救われてほしいと願ってしまう。まさしく人間の二面性・多面性をリアルに描きます。

双方観ててとにかく不快になるような、映画を観れば観るほど居心地悪い気分になる映画でした。

しかし、それがイイ…

イイんです!!この感じがたまりません。最高。

人物描写の鋭さもそうですが、物語の展開だってこれまたすごい。ただでさえ見るに堪えない田母神VSゆりちゃんの泥沼復讐劇の果てには、ゆりちゃんが文字通り”炎上”する結末を迎えます。この救いのない展開には、𠮷田監督のドSさが出てて終盤はめちゃくちゃニヤニヤしてました。

じゃあ「胸糞映画ということ?」といわれると別にそうではなく、あくまで𠮷田監督の実にうまい人物描写に基づいたヒューマンドラマだと感じます。少し普通じゃないですが。

この歪なヒューマンドラマこそ今の日本では𠮷田監督にしか作れない素晴らしいバランスを保った唯一無二の作風ではないでしょうか。

企画が動き出したのは3年前。今の現実社会と奇跡的な一致。

𠮷田監督によると、本作「神は見返りを求める」の脚本を書き始めたのが今から3年前の2019年。撮影開始が2年前の2020年とのこと。

「見返りを求める男と恩を仇で返す女」の物語を描きたいというアイデアから企画がスタートしたそう。人物設定として、映画監督と女優などいろんなパターンの組み合わせが浮かんだそうですが、最終的にヒロインに採用されたのは「底辺YouTuber」。そこに動画編集や物品の調達ができるキャラクターとして「イベント会社勤務の男」が相手役として決定する形に。

本編では、恩を仇で返された田母神が、復讐心から自ら「GOD T」(通称・ゴッティー)としてYouTuberデビューしトップYouTuberに成り上がったゆりちゃんに関する暴露動画を流し始めます。

もうこの辺りで思い出すのは、2022年現在世間を騒がせている「ガーシー」ですよね。完全に今の現実社会とリンクしています。僕は彼の動画を全く見たことないので、「芸能人のスキャンダラスな話題を次々暴露しているらしい」くらいにしか知りませんが、少なくとも観ようともしていない人間でも知っているくらいにはバズっている存在です。

本作は3年前に脚本を書いているので、そんな「ガーシー」の登場よりも前に「暴露系YouTuber」のフォーマットを作り上げていたわけで、完全に予言してしまっています。すごいですよね。

しかし𠮷田監督は未来がこうなるだろうという予測で書いたというより、YouTube自体規制が厳しくなりこうなはならないだろうと思っていたそう。しかし蓋を開ければ大当たりです。

ちなみに「”彼”が出て来て、即席でこの映画を作ったわけじゃないから!!」と各所で訴えていました。まあそう思う人が居ても不思議ではない。笑

この現実社会との奇跡的な一致も本作を楽しむ上で、ひと味違ううま味を持たせていると感じます。

正真正銘”愛”の物語

𠮷田監督本人はこの映画をなんと表現したか。

ラブストーリー」「愛の物語」です。

この映画のどこがラブストーリーなんだよ!!

と、言いたくなるところなんですが、よくよく考えると確かにどこかに”愛”があり、どこかで”愛”が生まれている映画なんじゃないかと思います。

振り返ると田母神は少なくとも序盤では、本当に「見返りを求めていない」んですよね。

献身的にゆりちゃんに協力し、編集の手伝いや「ジェイコブ」の調達など多くの面で底辺YouTuberであるゆりちゃんを支えていました。

さらに、見返りを求めていないことを決定づける印象的な場面が二つ。

一つはゆりちゃんが謝罪動画を撮影した後の場面。迷惑をかけ続けた田母神に対し、ゆりちゃんは「こんな事しか出来ないから…」と下着姿で抱き着き体で恩を返そうとしたわけですが、田母神は紳士的にゆりちゃんをなだめ優しく毛布を掛けます

もう一つはゆりちゃんが初めて動画の収益を手に入れた場面。「1500円だけだけどやっと収益が発生しました…」と報告するゆりちゃんと一緒にそれを喜び、大きな貢献をしたにも関わらず収益の分配を拒否します。

序盤の田母神を見る限り、これは完全に愛情でしたよね。愛を語るわけではないですが、本当の愛とは無償であり、まさに見返りを求めない性質を持っていると思っています。

深い愛情を持って接していた相手から突如裏切られ、同時に金銭的にも窮地に立たされてしまうわけですから、精神的におかしくなってしまうのも当然です。大きな盾にもなった愛情は、裏切られたその瞬間にそのまま大きな復讐への凶器となり得るのではないでしょうか。

愛情が凶器に変わった田母神は勢いそのままに復讐を開始しますが、どこかで”楽しかったあの頃”を視界の片隅に見ています。

復讐の真っただ中、田母神が”あの頃”の映像を優しげな眼差しで見つめるシーンは、本作でも大きく印象に残っているシーンの一つです。

カメラが銃口になる時代。だけど、それだけじゃない。

本作「神は見返りを求める」は扱うテーマから、現代社会と深くリンクしている作品であると感じます。

前述した「ガーシー」の件もそうでしたが、それ以前に”全国民カメラマン社会”のような、それぞれがSNSを通じて発信力を持ち、やろうと思えばどんなことでも発信できてしまう危険な一面を持ったデリケートな社会ではないしょうか。

その中で、我々のほとんどが持っているスマートフォンのカメラは、時に人を絶望の淵まで陥れる危険な”凶器”としてその役目を果たします。

ゆりちゃんが撮影後大やけどを負ったあと、病院のベッドで目を覚めるとそこには覆面YouTuber・マリオの姿が。彼は不謹慎にもゆりちゃんのその姿を撮影し、自らのチャンネルへアップすることを試みるわけですが、その背後にはかつてゴッティーであった田母神がカメラを構え、同じようにマリオの姿を撮影します。

このシーンはさながら西部劇のような、互いに銃口を突きつけあう現代のつばぜり合い的シーンとして非常に印象深いシーンです。

結果的にマリオを追い払いますが、僕が驚いたのは田母神も横たわるゆりちゃんをカメラで撮影し始めたこと。「お前も!?」と思いましたし、「結局復讐か?」とも思いました。

でも、このシーンで「カメラ」は「銃口」ではなかったんですよね。多分。

全身大やけどを負ったゆりちゃんはYouTuberとしてはおそらく再起不能です。それまで周りにいた多くの人間も同じことを思い、全身大やけどを負った「YouTuber・ゆりちゃん」は、一瞬にして無価値に等しい存在になったと感じたのではないでしょうか。だから多分お見舞いとかも全く来てないんですよ。

大きなものを失い、人間・川合優里になったゆりちゃんは、自分が失ったものやそれまで周りにあったものの空虚さに気づき、自分のために足を運んでくれた田母神と相対します。その後、田母神にカメラを向けられたゆりちゃんは、動画の中で「本当にあなたが嫌い。でも、ありがとう。」と言葉を残しました。

この映画は「愛の物語」であると前述しましたが、まさにこの瞬間に川合優里は田母神に対する”本当の愛情”を覚えたのではないでしょうか。

そして、田母神が病室で向けたそのカメラは「銃口」なんかではなく、二人がゼロから関係を築く始まりの象徴であったと感じます。かつて二人で笑いあった、カウントダウンの指折りを合図に。

まとめ

今回もぶったまげさせてくれた𠮷田監督の新作は、少しいびつだけど嫌いになれない愛の物語として多くの人の心を震えさせる傑作であったと思います。

本作の製作にあたり、𠮷田監督は多少なりとも「YouTuber」というものに偏見があったそう。

劇中のサイン会で、ゆりちゃんが女子学生から言われる「残るものってそんなに偉いんですか?」とのセリフは観ているこちらもめちゃくちゃ考えさせられましたし、YouTuberへのリスペクトを込めて書かれたセリフとのこと。

そういった細かいところに敬意にあふれる作風もスキになっちゃいますよね。

早速𠮷田監督の次回作が楽しみですが、すでに2,3本脚本を書いているとのこと。マジでメチャクチャ楽しみです。

その日まで、過去作たくさん見返したいと思います…。

以上!!

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